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研究者インタビュー

ゲーム研究者インタビュー

泰羅 雅登教授インタビュー【第1回】

テレビゲームへの正しい理解を~ゲーム研究者インタビュー

泰羅 雅登教授インタビュー

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泰羅 雅登(たいら・まさと)

日本大学大学院総合科学研究科教授

1981年東京医科歯科大学 歯学部卒業。1985年東京医科歯科大学 大学院 歯学研究科修了。日本大学医学部助手、講師、専任講師、助教授、教授を経て、2005年より日本大学大学院総合科学研究科教授。神経生理学および認知科学を専門分野とし、現在は三次元視覚情報処理の神経メカニズムの解明 (KEYWORD:頭頂連合野 , 機能的MRI)、頭頂連合野における三次元形能認知の神経メカニズムに関する研究 (KEYWORD:三次元物体 , 認知 , 頭頂連合野)、頭頂連合野における視覚性運動制御の神経メカニズムに関する研究 (KEYWORD:視覚 , 運動制御 , 頭頂連合野)、fMRI PETによる運動制御、視覚認知メカニズムに関する研究 (KEYWORD:fMRI,PET,視覚性運動制御)を研究課題としている。脳を鍛えて頭を良くする―仕組みがわかれば実力は伸びる(ライオン社)等、著作多数。

第1回ゲームとのつきあい方をリテラシーとして伝えるべき

2008年12月26日掲載

大切なのは、親子間のコミュニケーション

――「少年事件の原因がゲームにある」と言われがちな風潮に対して、泰羅先生はどのようにお考えですか?

泰羅:その話題の発端は、森昭雄さんの『ゲーム脳の恐怖』だと思うんです。結果として、「ゲーム自体が人の脳を壊してしまうから、壊れた脳を持った人は悪いことをして当たり前だね」っていう話になっていると思うんですね。でも、「それはちょっとおかしいんじゃないか?」っていう思いがまずあるんです。そういう論調って、ゲーム全部をひっくるめているじゃないですか? でも実際には、いろんなゲームがありますよね。たとえば『インベーダーゲーム』のように反射神経を必要とするゲームもあるし、『マリオ』みたいにピョンピョン飛んでいくものもあるし、それから『バーチャファイター』とか『鉄拳』みたいに主人公になって戦うものもあるし、他にロールプレイングもありますよね。ものすごくいろんな種類があるのに、ゲームが全部一緒に扱われてしまっているのがおかしいんじゃないかと思うんです。ですから僕らは、「『ゲームが悪い』と主張したいなら、いろんな種類のゲームをやっているときの状態をひとつずつ調べてみて、それからものをいうべきだろう」というところからスタートしたんです。

細かい話は端折りますけど、単純なゲームだと人ってそんなに脳を使う必要がないんです。見たものに対して反応すればいいだけだから、視覚と手以外は使っていないんですよ。だけれどもロールプレイングゲームなどの場合は、ゲームを介して会話をしてますよね。つまり、日常生活と同じような頭の使い方をゲームの中でもしてるわけです。それから『バーチャファイター』とか『鉄拳』の場合は、自分で体を動かしてはいないのですが、あたかも動かしてるような脳の使い方をしている。一方『マリオ』のようなゲームだと、動いてはいないけど平衡感覚を使うような活動をちゃんとしているわけですよね。そう考えると、反射ゲームみたいなものはたしかにあまり脳を使っていないかもしれないけれど、他のゲームはバーチャルな体験をさせているわけです。ということは、よくできたゲームでは我々が実世界で体験しているときと同じような脳の働きをするようになっているわけですね。だから「ゲームが脳を壊す」とかね、そういうことは見えてこないんです。

――むしろ良い影響を与えることもあり得るということですか?

泰羅:その可能性はずいぶんあると思いますよね。いろんなトレーニングができる可能性も充分あるでしょうし。

――たとえばどんなことが考えられますか?

泰羅:うーん、それは難しいですけどねえ。でもひょっとしたら、なにかのリハビリに使える可能性だってあるんじゃないかなっていう気はします。実際は動けないんだけれども、ある感覚系だけゲームを使って入力をしてやるとか。映像のコンテンツが多く関わってくると思うんですけれど、その辺で、良い影響を与えるような可能性があるだろうということは充分に考えられます。

――『Wii Fit』などもそういう類でしょうか?

泰羅:あれは実際に体を動かしますけどね。でも実際に動いてるのはバーチャルな人たちで、「より疑似体験が強くなった」ということですよね。ただ単に手だけでやっているよりは、疑似体験が強くなると言ったらよいのでしょうか。一方で体が動かない人がやった場合には、それだけでも効果はあるかもしれないわけです。

――そういう意味では、今後のゲームクリエイターは社会の役に立つとか人の能力を伸ばすゲームを開発していく義務があるということでしょうか?

泰羅:それはそうですね。ただね、ゲームは良いところばかりではないという事実もあるわけです。一番の問題は、「ゲームとのつきあい方」ですね。それは間違いないことです。ゲームというのは基本的に、おもしろくなければ売れないですから、おもしろく作ってありますよね。おもしろく作ってある以上、ハマるっていう危険性は絶対あるわけです。おそらく、ハマることによる弊害がいちばん大きな問題だと思うんです。

要するに、「それにだけ時間を取られてしまう」ということです。おもしろいから、それだけやり続けてしまう。特に小さな子は、ハマッてしまったらそれだけしかやらなくなってしまう。幼稚園とか小学校の頃は、基本的にはいろんなことをやる時期にあるわけですよね。だけどゲームだけに時間を取られて他のことをやらなくなったら、生活習慣も乱れてしまう、そこが一番の問題だと思うんです。ゲーム業界の人は、楽しくないゲームなんて絶対に作るわけがないです。なぜなら、楽しくないゲームが売れるわけがないからです。したがって、楽しいゲームを作らなきゃいけないということになりますよね。だからこそ親はゲームを与えるときに、「ゲームの怖さ」ではなくて、「ゲームとつきあうことの怖さ」をちゃんと認識させないといけないんです。そこが一番問題だと思うんですよね。

――そのために親はどんなことをすべきでしょうか?

泰羅:極端な話、「大変なことになるからゲームは買いませんよ」っていうお母さんたちがいるわけですよ。たとえば以前、ゲームに対して過度な恐怖心を持っていて、「ゲームという害虫が家の中に侵入しないようにバリアを張ってます」という方がいらっしゃったんです。そのお母さんも「ゲームそのものがそこまで悪いわけではない」ことはわかってるんですけど、「子どもがハマッてしまったときにうまく取り上げられるかどうか、自分には自信がない」と。だから、「最初から"無い状態"にしてしまった方が楽だ」という発想になるわけです。

でも大切なのは、「『ゲームとどうやってうまくつきあうか』っていうことをリテラシーとしてちゃんと教えること」なんです。ソニー・コンピュータエンタテインメントさんがやっておられるように、「リテラシー教育として積極的に子どもさんたちに教育をしてあげる」っていうことですね。

「ゲーム自体をやることはそんなに悪いことではないんだよ。頭が壊れるとか、そんなことはないんだよ。でもね、君たち、ゲームをやったらハマッちゃって他のことをやらなくなっちゃうでしょ。それは危ないよ。だからそこは気をつけようね」っていうことを伝える、それがいま一番重要なことじゃないですかね。

――つまり、親子のコミュニケーションの問題ですね。

泰羅:そうです。たぶん「ゲームを取り上げる」っていうことについては、ほとんどの親御さんがご苦労されていると思います。うちの子どもの場合もかなり大変でしたから。安易にポーンと与えてしまうと、そこのところで大変なことになりますね。だから、重要なのは「いちばん最初」なんです。「最初にゲームを与えるときに、どう話し合って、どう子どもさんとゲームとのつきあい方をコントロールできるか」だと思うんです。ゲームを家庭に持ち込む前に、まず子どもさんとゲームのつきあい方を話し合う。いちばん最初が肝心なんじゃないですかねえ。

それとね、「お母さんが一緒にゲームをやる」というのも良いと思うんですよ。それだけでもだいぶ環境は変わると思うんです。たいていのお母さんはすぐに子どもさんに負けて、そのうちに参加しなくなっちゃうんですけれどね(笑)。